せっかく道具を準備しても、連日の大雪のせいでニシン釣りに行くことができぬ。

そんな事を考えながら吹雪の中ウォーキングしていたら突然の雷だ
これはワカサギ大明神の怒りに触れたわけでその証拠に

「ワカサギ大明神さまお先にお通りください」

と３回唱えたらたちまちおさまった

「見えなくても居る」
ってゲゲゲの女房はとっくに終わっているのだった。いや、そうではなく．．．


　そういえば思い当たる節がある。

　まず、ニシン釣りを考えた次の日から大雪は始まった。さらに集魚ライトを友人Tに借りに行こうとしたらことごとく猛吹雪に遭いたどり着くことができぬ。

　ようやく借りたとて、週末は大雪で小樽などたどり着けるはずもないのだ。

　道路網は完全に破綻しさらに鉄道すら連日の遅れである。センター試験への影響があまり無かったのはワカサギ大明神のお慈悲であろう。

　だが、それでもワカサギ大明神は完全に荒れ狂っており、おそらく、もうなんで怒っているかすらわからなくなっているはずで今更なだめる方法はないが、今年のニシン釣りは取りやめにし、週末はせめてワカサギ経を唱えて少しでも怒りを鎮めるしかない。

　なぜならば、すでにワカサギ釣りセットは物置の奥深くに「TOP SECRET」の張り紙で封印されており、開封すればたちまちすべてのワカサギ以外の魚を釣り尽くしてしまうというヒジョーにキケンなパワーを持ったものなのである。

「のだめ」の映画が終わってからは、しばらくドラマの方を見ていない。実は、持っている録画Discが再生できなくなってしまったからだ。

　だが、すでにほぼ全編を覚えているから、今やDVDなど見なくてもいつでもどこでも妄想可能なのだ。

第4話。Sオケの初公演。ブレザー姿の千秋と徹夜の練習で汗臭いSオケメンバー。

「だって俺たちオケほとんど初めてなんだぞ」

「オレも初めてだよ。オレたちSオケの初舞台。楽しもう。」

ブレザーの中はSオケTシャツ。指揮者用のバックプリント付きだ。オレは颯爽とブレザーを脱いだ。


　そして、オレは指揮台に上がったが、指揮棒を持つのをすっかり忘れていた。やはり初めてのことで少々緊張しているのだ。
しかも、さっきTシャツになったはずだが今はスーツだ。なんか変だぞ。

　ピアノの上に置いてあった指揮棒を持ち、再び指揮台に上がる。

　みんなは、息を殺してオレの指揮を待っている。

　オレは静かにタクトを振り下ろした。

　軽快な伴奏が始まる。美人ピアニストの生演奏だ。

　だが、歌声があまりにも力弱い。オレはオーバーアクション気味にタクトを振り、全員を鼓舞した。

　そして短い曲はいよいよクライマックス。歌声は最高潮？に盛り上がり、終わった。

　やわらかい拍手が起こった。

　やったのだ。
　大半が「形式だけだから」とか「だれも見ていないから適当に」と思っていたのだ。だが、僅かだが皆の認識に変化が起きたことを確信した。

　そう、やはり指揮はいらない．．．ちがうちがう

　皆は今、音楽を楽しんだのだ。そしてオレは今、この音楽を支配したのだ。

　達成感から緊張の糸がほどけ、オレは気を失った．．．．．




　あれれ、どうも、くたびれて妄想のまま寝てしまったようだ。

　オレはよだれで汚れたスーツの袖をハンカチで拭った。